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(2つとも不定期更新です)


創立者・及川勝について


平成29年2月2日   管理人
「うるさそうな小父さんだなぁ」
 これが”大将”、及川勝さんに初めて会った時の印象でした。
 当時仮入会で練習に参加して基礎を教わっていた頃で、保存会は太平洋炭礦内部から会員を募るという従来からの姿勢を転換、外部に広く人材を求めるようになっていた時の事です。
 既に大将は会長職を退き、創始者として顧問の席についていました。
 久しぶりに練習場に訪れた際に、見慣れない叩き方もわからない若い奴がバンバンと大事な太鼓を叩いているのを見て、苦々しく思ったのかもしれません。
 強面で見ている厳しい目を見て、当時26歳の私は頭書の印象を持ったのでした。

 それから半年以上経過して、夏の春採神社のお祭り「山神祭」で大将の印象ががらりと変わる出来事が起こりました。
 初めて尽くしの山車での演奏の後で神輿を出迎えるべく先に神社に戻り、迎え太鼓を打つ保存会の前に赤ふんどしで踊りながら神輿を先導する小父さんが現れました。
何とノリノリで踊るその小父さんこそ、「釧路太平洋太鼓保存会創始者・及川勝」その人。
お神酒をいただいていることは間違いないとしても、赤ふん一丁で神輿について出てくる人なぞ見たことがない自分。
『どんだけ祭り好きなんだよ、この人・・・・・・』と思うと共に、怖いだけの人じゃないんだなと思いを変える出来事でした。

 太平洋太鼓は大将と仲間が作った炭礦とお祭りを盛り上げる団体であると共に、釧路の太鼓芸能の創成期を支えてきた団体です。
 後で人づてに聞いた話ですが、大将は若い時から太鼓そのものに惚れ込み、自分の人生のかなりの部分を保存会と太鼓芸能に捧げてきました。
 自腹を切って本州にある日本太鼓連盟の指導者育成事業に参加し認定指導員の資格を習得したり、国内有数の太鼓メーカーの社長と長年にわたり個人的に友好な関係を築いていたり、管内の太鼓連盟の要職を歴任して芸能の発展に尽力したりと、文字通りの「太鼓バカ一代」だったようです。

 大将の太鼓人生の後ろの方しか接点のない私には、大将について知らないことが多いです。
 しかし、その少ない接点の中でも、大将の言葉に励まされたり、助けられたりしたことが幾つかあります。
 
 35周年記念公演の翌年、気持ちが折れてきたこともあり保存会をやめようかと思っていた時期がありました。
 私はその年の総会の2次会で大将と隣になった時に、酒のせいもあって、ふとそのことを大将に漏らしました。
 大将は私の話を黙って聞いてから、穏やかな声でこう言いました。
「(保存会を)やめるな。やめることはいつでもできる。でも、一度やめたら会に戻るのは難しい。どんな形でもいいから会にいろ。やめることだけはするな」
 今考えてみれば、積み重ねてきて得た居場所や仲間をわざわざ自ら捨てることはない、大将はそう言いたかったんだと思います。
 そして、大将のその一言で私は会に留まることができました。
 その後、個人的な事情で打ち手としては活動していませんが、どんな形での活動であっても保存会に関わっていこうと思い、折れそうになる度に大将の言葉を思い出しています。

 創立40周年の公演の前には大将に背中を押してもらいました。
 役員会の中で公演の骨子を組んでいく際にリーダーを中心に素案を作り、予算を組んだ際です。
 衣装の新調、演出原案、構成。その中で従来の形と違ってくる部分がいくつも出てきます。
 保存会の創始者として公演においてこの線は譲れない、と言われるかもしれない事柄に対して、大将は一言こう言ったのです。
「お前たちのやりたいようにやれ」
 最も説得が難しいと思っていた大将からの一言で公演の方針は一気に決まりました。
 この創立40周年の記念公演こそ、太平洋太鼓保存会の今後の演奏活動において大きな転換点となった公演であると私は思います。
 その転換点にはやはり太鼓というものを限りなく愛してやまない、新しいものも貪欲に取り入れて更に発展していく保存会を誰よりも望んでいた大将の姿勢があったのです。
 持病を抱え、現役最後の舞台かもしれないと思いながら大将が臨んだ公演は、その熱演を含みながら当時最高の出来栄えで終えることができました。
 しかし、その後ひと月もたたない11月17日に大将は不慮の事故でこの世を辞して、ひとり幽世に旅立ってしまいました。

 釧路の太鼓界の成り立ちを支えてきた先達たちが一人、また一人と鬼籍に入っていく今、先に行った大将はかつて小国大八先生から頂いたサイン入りの太撥を握って桶胴太鼓を叩きながら仲間を出迎えているのかもしれません。
 そして、大将と仲間たちが興し、遺していった釧路太平洋太鼓保存会は大将の心根をその奥に据えながら、今日も演奏に励んでいます。